相続事前対策 2 ~相続税対策としての生前贈与(1)~
相続税対策とは?
私は、お客様から将来の相続の相談を受ける時には、その相談内容を「相続税対策」又は「相続対策」と区別しながら、お話しを聞くようにしています。いろいろな考え方があると思いますが、私は「相続税対策」と「相続対策」を次のように考えています。
「相続税対策」
○将来納付するであろう相続税の支払手段について、事前に検討し確保すること
○将来納付するであろう相続税額自体を減少させるために事前に施策を行うこと
「相続対策」
○相続人が複数いる場合に、遺産の分割について、相続が実際に始まる前に検討し、できれば遺言書により指定すること
具体的には、「相続対策」で、被相続人の思いと相続人の状況(【例】相続人の内に配偶者がいる場合は今後の配偶者の生活を一番に考えなければならない)・遺産の属性(【例】被相続人が会社を経営していた場合はその後継者がその株式を引継ぐ)などを勘案して、『誰がどの財産を引き継ぐか?』を検討し、その「相続対策」の検討の中で、『相続人がそれぞれ引継ぐ予定の遺産につき、課されるであろう相続税を支払うことができるか?(引継ぎ予定の遺産の内に支払手段となるものがあるか、又は相続人自身に支払能力があるか?)』、及び『事前に相続税が減らせる対策をとることはできないか?』といった「相続税対策」を併せて検討していくことになります。そして、これらを繰り返し検討しながら、『遺産を誰がどの時点で引き継ぐか』等の計画を立て、その計画の中で生前贈与など被相続人の生前にとる対策がある場合は、その計画にしたがって実行していきます。
そのため、「相続税対策」は、「相続対策」の中で相続の当事者間の話し合いができることが前提となります。
≪ 補 足 ≫
「相続対策」は、相続人間で不仲があり意見の対立が想定される場合は、民法の規定に従って相続人間で調整をする必要があります。そのため、この場合は必ず遺言書による遺産の分割の指定を前提として、出来るだけ争いごとを少なくするために弁護士に第三者としての調整役を依頼し、税理士は補助的に関与することになると思います。
(ただし、私見ではありますが、このような状況でも、被相続人が存命中に調整をおこなった方が、何もせずに相続が始まり相続人間だけで行う調整よりも意見がまとまりやすいと考えられるため、できるかぎり相続開始前に対策をしておいた方がよいと思います。)
※ 「被相続人」・「相続人」は相続が始まった時に使用する呼称ですが、理解しやすいように、このコラムは相続開始前でも「被相続人」・「相続人」としています
相続税対策の進め方
基本的には、次の(1)~(3)の手順で進めていきます。そして、関係者間の円滑な話し合いと認識を統一するためには、(1)~(3)につき、取得予定者・相続税評価額等の項目を記載した一覧表とスケジュール表を作成した方がよいと思います。ただし、被相続人の遺産の状況が対策を行った時の想定と違ってくる場合もありますので、定期的(例えば3~5年に一度)に見直しを行い、必要があれば再度関係者間で調整を行った方がよいでしょう。
(1) 現状の財産・債務の棚卸し
↓
(2) 相続税評価の試算及び相続税額の試算
↓
(3) 相続税対策(及び相続対策)の立案・実行
事前にとれない対策がある
例えば、限度面積の範囲内で相続税評価額から80%又は50%の減額をとることができる「小規模宅地等の特例」は、『相続又は遺贈により取得した土地等』が対象となっており、贈与で取得した土地等については適用がありません。したがって、「小規模宅地等の特例」の対象となる遺産がある場合は、単純に考えると相続開始前に生前贈与によって引き継ぐよりも、相続開始後に相続によって引継いだ方が相続税を少なくすることができます。そのため、「相続対策」で『誰がどの財産を引き継ぐか?』の検討・決定を行う(そしてできれば遺言書により指定する)のみの方がよい場合があります。
(生前贈与の方がよい例として、配偶者は居住用不動産の生前贈与につき2,000万円まで課税価格を減額する特例の適用を受けることができます。そのため、配偶者が居住用の土地等を引き継ぐ場合は、生前贈与の方が有利な場合もあります)