法人決算の決算期末における注意点 3
このコラムでは中小企業の皆様に、法人決算の決算期末における注意点を、執筆時点での税法に基づいてではありますが、出来るだけわかりやすくお伝えしています。
今回は、資本的支出の加算特例の活用について説明します。
建物付属設備・構築物の償却方法の変更とその影響
平成28年度の税制改正により、平成28年4月1日以後に取得した建物付属設備と構築物の償却方法は『定額法』に限定されることとなりました。
そして、定率法を採用している本体資産に平成28年4月1日以後資本的支出を行った場合の償却方法は、次の取扱いとなっています。
≪ 原 則 ≫
資本的支出を新規取得資産とみなして、本体資産と同じ耐用年数で定額法で償却する
≪ 特 例 ≫
本体資産が平成19年3月31日以前取得の場合は、加算特例を適用することにより【旧】定率法で償却することができる
用語等の解説
建物付属設備・構築物の償却方法の変遷
取得日 | 償却方法 |
~平成19年3月31日 | 【旧】定額法 or 【旧】定率法 |
平成19年4月1日~平成24年3月31日 | 定額法 or 250%定率法 |
平成24年4月1日~平成28年3月31日 | 定額法 or 200%定率法 |
平成28年4月1日~ | 定額法 |
資本的支出とは
固定資産の修理・改良等のために支出した費用のうち、その固定資産の使用可能期間を延長させ、又は価値を増加させる部分の金額をいう。
加算特例とは
【旧】定額法 or 【旧】定率法を採用している本体資産に対して資本的支出を行った場合、資本的支出を行った事業年度に、資本的支出の額を本体資産の取得価額に加算して償却できる。
定率法を採用するメリット
定額法と比べて初期に多額の減価償却費を計上することにより、税金を低く抑え固定資産の取得に投資した資金を早期に回収することができる。
計算例
平成18年4月1日に取得した天井埋込型の冷暖房設備を、平成28年4月1日にダクト配管は簡単な修理をしてそのまま利用し、エアコン本体を最新式の省エネタイプのものに取り替えた。
( 条 件 )
○事業年度 4月1日~3月31日
○本体資産の取得価額5,000,000円
○本体資産の期首(平成28年4月1日時点)の簿価1,075,000円
○資本的支出の額 4,000,000円
○【旧】定率法の償却率 0.142(耐用年数15年)
○定額法の償却率 0.067(耐用年数15年)
≪ 原 則 ≫
(1,075,000×0.142)+(4,000,000×0.067)=420,650
≪ 特 例 ≫
(1,075,000+4,000,000)×0.142=720,650
< 差 額 >
720,650-420,650=300,000
加算特例の活用
上記の計算例のように、平成19年3月31日以前に取得した建物附属設備・構築物に平成28年4月1日以後に資本的支出を行った場合は、加算特例を適用した方がより多くの減価償却費を計上することができます。
例えば、建物付属設備の場合に加算特例が適用可能な資本的支出で想定されるのは、平成19年3月31日以前に取得した給排水設備を、使用状況によっては10年を超えると傷みが大きくなってくるため、大規模な修繕・改良を行う場合、あるいは平成19年3月31日以前に取得した空調設備が、その後相当の省エネ効果が見込まれる新製品が販売され、省エネ効果による光熱費の削減も考慮して買い替えをする場合などが挙げられるでしょう。建物附属設備に関しては、新規取得から10年を超えると大規模修繕等を行うことがありますので、平成19年3月31日以前に取得したものがちょうどそのサイクルに該当する場合もあると思います。そして、資本的支出の額が大きければ加算特例による効果は大きくなります。
一方で、加算特例の選択適用は事前に税務署に届出・申請を行う必要もなく、決算手続きの過程で比較検討することができます。
当期のキャッシュアウトを最大限に当期の費用として計上し、当期の税負担を最少に抑えたい場合は、加算特例は一考の価値があると言えるでしょう。
※参考・・・償却資産の取扱い
建物附属設備・構築物のうち償却資産の申告対象となっているものに資本的支出を行った場合、償却資産には加算特例の適用はないため、本体資産と区別して申告する必要があります。
そのため加算特例を適用する場合は、固定資産台帳で減価償却計算用と償却資産申告用の両方の取得価額の管理が必要と考えます。